2020.12.23
Project note:
Nagayama Rest
解説 No.03
長々とNagayama Restのお店作りについて書いてきました。書こうと思えばもっと細かく書けることもあるのですが、新たに書いていきたいプロジェクトもできたので、Nagayama Restの立ち上げの話は今回で最終話にしようと思います。今回も少し長めですが興味のある方はお付き合いください。
「モニュメント」
旧三菱鉱業寮側の入口から入ると(※2020年12月から入口は旧永山武四郎邸側に変更になります。)正面にはNagayama Restの店内が見える大きなガラス窓があります。このガラス窓は元々は無く、カフェの新設の時につけていただいたものです。入館後すぐに目にする場所のため、ここをショウケースのように何かで演出したいと考え、カフェのコンセプトでもある「文化財を継承する」というメッセージを込めて、大きなリース型のモニュメントを作ることにしました。このメッセージを伝える為にNagayama Restの蔦のようにつながる「文化財の継承」を意味するグラフィックパターンを立体で制作したいと考え、作家のG.A.A.Lの伊賀信さんにご協力をいただき全体のデザインを決めています。
綺麗な円ではなく幾何学的な形状でグラフィカルな円を作り、そこに4000ピース近いパターンを貼っていったのですが、この作業がなかなか骨の折れる作業で、カフェのスタッフとデザイナーとで協力して作ったのですが、とても大変な作業となりました。ピースを自分たちで綺麗に2度塗装し、さらに墨出ししたベースに綺麗に貼っていくのですが、みんなで頑張りましたがきっとカフェのスタッフは、なんでデザイナーはこんなめんどくさいことを言うんだろうと思っていたに違いありません。デザイナーあるあるですね。深夜まで作業が及ぶこともありとても大変ではありましたが、おかげでコンセプトの理解とお店を自分事として捉える上でも意識が強まり結束が高まったように思います。立ち上げの経験の中でクリエイティブなことをみんなで一丸となって行うことはとてもいいことだと感じました。このリースについて、文化財の中に新たに置くもので、ここまで印象の強いものを置くのはどうなのか。というご意見もあり、説明の場を設けていただいたりもしましたが、コンセプトは建物由来のもので、公園にある色・建物の色を館内にも持ち込むという配色でもあり、「有効活用」という目的に対して施設の印象の向上・新しいものとの融合で、若い人の関心を寄せる事など、しっかりとご理解もいただき、進めていくことができました。
「ステンドグラスと装飾」
今ではすっかりNagayama Restの顔の一つとなったステンドグラス。これももちろん新たに製作したものですが、新しいのに「文化」に気づかせてくれるマテリアルの一つになりました。このお店のパターンをここにも展開しながら、明治・大正ロマンを感じさせる演出として大きな役割を果たしてくれています。ステンドグラスのデザインを下したのはこれが初めてではありましたが、パターンの大きさの検証やガラス素材の選定、組み合わせによるイメージの構築など、デザインを終えた後に、最も仕上がりを楽しみにしていた部分でもあります。
私たちが店舗のデザインを進めるにあたり、インテリアデザイナーの図面制作部分や什器の制作・選定以外に、インテリアの上に貼るようなイメージでグラフィックデザイナーが回答する装飾に近い空間のデザインの領域があります。今回はステンドグラスはその一部で、これもオリジナルのグラフィックパターンを展開したものです。ステンドグラス以外にも壁には桜の木をイメージして貼ったモニュメントのピースの余り、旧永山武四郎邸及び旧三菱鉱業寮を表す「永」と「三」をマーク化したシンボルなどをバランスを考えながら、お店のコンセプト、個性の形を少しづつ伝えるようなイメージで配置しています。グラフィックデザインとインテリアデザインが連携することで、より計算しながらコンセプトの浸透を計れるのではないかと考えています。
ナガヤマレストのインテリアデザイン
「グッズ」
オリジナルデザインのクッキーや、モニュメントの端材で作ったシンボルマークのバッジ、ナガヤマレストのオリジナルブレンドコーヒー、オリジナルグラフィックパターンのハンカチやブックカバーにマスキングテープ。そしてそのパッケージ群。今回グッズを開店当初から多く制作し販売もしています。これは文化財を拡散するという目標のために制作されたもので、カフェのグッズが売れることで文化財の情報を外に持ち出すような意図がありました。文化財の中で買ったものを家に持ち帰ることで、より市民の生活の中で記憶に残る文化財になるし、お土産としてグッズが行き渡ることで、この場所の価値がさらに上がり、新しい観光資源として育つことを期待したからです。
北海道は歴史が浅いため、時計台や旧道庁、サッポロビール博物館などの有名観光地のように、この旧永山武四郎邸も北海道・札幌の名所になる可能性があり、市民も生活の中で現役で使う、生きた文化財観光地になるのではないかと考えています。新たな観光地作りの中で飲食ビジネスやデザインがその企画の中心にいるということはとても新しいことであるし、面白いことであり、若い人に興味を持っていただける大きなきっかけになるのではないでしょうか。
最後に
こうして出来上がった由緒正しい文化財に本格的な喫茶・レストランを開業するという実験的なプロジェクト「Nagayama Rest」の企画・デザイン・店舗開発は、無事OPENまでたどり着くことができました。札幌市で掲げていたリニューアル後の年度来館目標は8,400人でしたが、1ヶ月で9,000人を越え、年度来館者数は49,000人弱という結果を作ることができました。きっと8,400人の目標設置は今までのこういったプロジェクトの実績からなのでしょうが、そもそも喫茶店の事業計画からも8,400人では収支が合わないので、この目標は大きく越える必要がありましたし、そして私たちのような飲食・デザインの会社がしっかりと関わった実績は札幌では初めてのように思います。観光資源開発・歴史文化との関わりの中に、デザイナーが関わるプロジェクトの可能性、ビジネスの可能性を感じていただけたのではないでしょうか。歴史・文化の継承プロジェクトの中にこそ、しっかりとした企画や意匠・デザインで学びと感動のあるコミュニケーションがあると、地方創生の点からも今後必要な企画なのではないかと思います。
公園のリニューアルの成功もあり、園内を走り回る子供達も増え、今まで旧永山邸を知らない、訪れたことがない若い人たちが非常に多く訪れています。プロジェクトの成功を感じ、本当に参加させていただいて良かったと心から思えるプロジェクトです。子供から大人まで幅広い人たちが文化財を生活の中で活用していて、本当に有効な活用がされていると公園に行く度に感じています。デザイナーとしては少しシンプルで個性を抑えるように作った部分もあるのですが、それで正解だったと思うこともあり、学びの多いプロジェクトにもなりました。Nagayama Restは継続的な監修で関わっているので、この喫茶店のある文化財有効活用プロジェクトが、ここならではのフードビジネスのブランディングを通してどういう文化財の印象を育てていくのか、見続けていきたいと思います。それでは。